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血液がんについて

血液・腫瘍内科 津田弘之

1.3大血液がん

 近年、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、肝がんは5大がんと呼ばれて、病気の概要について広く知られるようになりました。一方で、血液がんについては、映画やドラマのテーマにはしばしばなるものの、まだ意外によく理解されていないようです。血液がんのほとんどを占め、3大がんと呼ばれるのが「白血病」「悪性リンパ腫」「骨髄腫」です。なかでも、悪性リンパ腫は、先の5大がんに次ぐ頻度でおこり、決して少ない病気ではありません。以下、血液の3大がんについて概説します。

2.白血病

①急性白血病

 急性白血病は、骨髄中の未熟な血液細胞(造血幹細胞)ががん化して、正常の分化・成熟が止まり、急速に増殖する病気です。がん細胞の起源によって、骨髄性とリンパ性に分けられます。両者で程度の差はありますが、主な症状は、発熱、出血、貧血です。どれも正常造血が傷害されることに起因し、発熱は白血球(好中球)減少による感染症、出血は血小板減少(時には加えて血液凝固異常も)、貧血は赤血球減少のためです。リンパ性白血病の場合、リンパ節が腫れることもあります。
 小児から高齢者までみられる病気ですが、小児と成人では白血病細胞の性質も予後も大きく異なっているので、同時には論じられません。同じ成人でも、高齢者の場合は、約7割が前白血病状態である「骨髄異形成症候群」という時期を経て発症するのが特徴です。白血病と言うと、がん細胞が血液中にいっぱい増えているという印象を持たれがちです。もちろんそういうケースもありますが、血液の中のがん細胞はわずかで(骨髄では増えている)、正常細胞の減少だけが目立つ場合も少なくありません。特に、骨髄異形成症候群に由来する白血病ではそうです。
 治療は、抗がん剤による化学療法です。骨髄性とリンパ性で治療法が異なるのはもちろんですが、どちらにも、染色体や遺伝子変化の種類によって、治りやすいタイプと、治りにくいタイプがあります。例えば、急性前骨髄性白血病というタイプでは、レチノイン酸(ビタミンA誘導体)が特効薬ですが、反対に、現在の治療法では治癒に導くのがとても困難なタイプもあります。若い人の場合は、さらに造血幹細胞移植を加えた方がよい場合があります。最近では、急性骨髄性白血病の一部に対して、抗がん剤を標識した抗体(ゲムツズマブオゾガマイシン)、急性リンパ性白血病の一部に対して、分子標的薬剤であるイマチニブや同系のお薬が使われるようになり効果を上げています。

②慢性白血病

 慢性白血病にも、由来する細胞によって、骨髄性とリンパ性があります。慢性リンパ性白血病は欧米ではとてもポピュラーですが、日本では比較的まれなので、ここでは慢性骨髄性白血病についてのみお話しします。骨髄中の未熟な血液細胞(造血幹細胞)ががん化するのは、急性白血病と同じです。異なるのは、がん細胞が、分化成熟する能力を保っていることです。その代わり、本来寿命がきて死ぬはずの細胞が、がん化により生き残って、結果的にからだの中でゆっくりと増えていくのです。従って、病気の進行は遅く、症状も初期にはほとんどありません。そのため、健康診断の血液検査で、偶然、白血球や血小板の増加を指摘されて発見される場合がほとんどです。ただ、進行すると脾臓や肝臓が腫れてきます。また、慢性とは言っても、急激にがん細胞が増殖を始める時期があります(急性転化)。
 原因遺伝子、分子異常がよく解明されており、分子標的薬剤の代表格であるイマチニブが治療の第一選択です。以前は標準治療だった造血幹細胞移植なしでも、長期にわたり非常によい治療効果が得られています。さらに効果の高い、ニロチニブ、ダサチニブといった薬剤もあります。

3.悪性リンパ腫

 白血球の一種であるリンパ球ががん化して増える病気です。自覚的には、首、脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れて気付くことが多いのですが、リンパ組織は全身に分布しているので、からだのどこから出てきてもおかしくありません。時には、発熱、体重減少、寝汗などの全身症状を伴います。
 ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別されますが、日本では後者が大多数を占めます。非ホジキンリンパ腫は、由来するリンパ球の種類によって、B細胞性、T細胞性、NK細胞性などと呼ばれます。さらに、病理組織像、染色体、遺伝子、細胞表面形質などの違いから、多くの種類に分類されます。急速に進行するタイプから、年単位でゆっくりしか進まないタイプなど、千差万別です。
 診断には、病変部位を試験的に切除「生検」して調べる「病理診断」と、PET/CTなどによる「病期診断」があります。どちらも、確定診断、治療方針決定、予後予想などには必須です。極端に言えば、たとえ悪性リンパ腫でも、病理・病期診断によっては、即治療が必要な場合も、何年も治療無しで経過観察をする場合もあるのです。
 治療は、抗がん剤を組み合わせて行う化学療法が一般的です。B細胞性の場合は、それに、リツキシマブという細胞表面抗原に対する抗体を併用します。放射線療法も効果があり、主に補助的治療として行われます。ケースによっては、放射性アイソトープを標識した抗体で治療する方法もあります。再発した場合や再発する可能性が高い場合は、造血幹細胞移植の選択も考慮します。

4.多発性骨髄腫

 多発性骨髄腫は「形質細胞」ががん化して、おもに全身の骨髄で増える病気です。形質細胞は、白血球の一種であるリンパ球(B細胞)から分化・成熟した細胞で、元来は病原体からからだを守る「抗体」(免疫グロブリン)作っています。通常、がん細胞もこの特性を保っているため、血液や尿中にM蛋白と呼ばれる抗体が検出されます(ただし、この抗体は抵抗力にはなりません)
 高齢者、特に男性に多い病気で、年々増加傾向にあります。症状で最も多いのが、骨の痛みです。がん細胞が骨を破壊しながら増えていくのが主な原因で、実際、全身の骨が弱く、折れやすくなります。次第に、正常の造血が傷害されて、貧血、白血球減少、血小板減少なども生じます。腎障害、免疫不全(抵抗力の低下)、高カルシウム血症による諸症状もこの病気に特徴的です。ただ、近頃は、無症状で偶然M蛋白が見つかることも少なくありません。
 治療は、病気の時期(進行度)、年齢、全身状態などを勘案して決めます。たとえば、病気の初期で臓器障害のない場合は、治療なしで経過観察するのが標準的です。言い換えれば、治療対象は「症候性骨髄腫」と呼ばれる臓器障害を持った患者さんのみです。そして、比較的若く(65歳以下)、大量化学療法に耐えられる臓器機能を持っている場合は、大量化学療法+自家造血幹細胞移植を考慮します。それ以外は、標準量化学療法の対象です。標準療法後の再発や、抵抗性を示すようになった例に対して、最近3つの有力な薬剤が登場しました。サリドマイド、ボルテゾミブ、レナリドマイドです。それぞれ単独、あるいは既存・新規の薬剤との併用で、非常によい治療効果を示しつつあり、今後、標準療法が変わっていく可能性さえあります。

5.終わりに

 以上、3大血液がんについて概観してきました。どの病気も、生命を脅かす怖い存在であることは今もかわりがありませんが、治療法は着実に進歩しています。特に最近は、「分子標的薬剤」と呼ばれ、がん細胞やその環境に特有の遺伝子・分子異常に標的を定めて創薬される一連のお薬が注目を浴びています。これらの薬剤の中には、従来の治療成績を一気に押し上げ、標準治療を変えてしまったものもあります。一方で、新しい副作用や高額な薬剤費などの問題が生じてきています。これらの問題点も含めて、新しい治療法の動向には目が離せません。