講座

ひ尿器科 桑原朋広

市民のための健康講座(平成23年9月15日)より

【前立腺とは?】

 前立腺は膀胱の下にあります。くるみ程の大きさで中心に穴が空いており、尿はこの穴を通り、尿道を通って外に出されます(図1)。また、前立腺は男性だけに存在し、精液を分泌して、精子の運動を助けています。


図1

【前立腺肥大症】

 前立腺は内側の内腺と外側の外腺に分かれています。前立腺がんが外腺に発生する事が多いのに対し、前立腺肥大症は内腺が大きくなったものです(図2)。老年期に性ホルモンのバランスが崩れることで肥大が始まります。50歳で50%、65歳で70%、80歳で90%に前立腺肥大症はみられ、そのうち4分の1の方は治療が必要です。


図2

(症状)
 大きく排尿症状(おしっこをするときの症状)と蓄尿症状(おしっこを貯めるときの症状)に分けられます。排尿症状は、前立腺内の尿の通り道が圧迫されることが原因で起きる、尿勢低下(おしっこの勢いが弱い)、腹圧排尿(お腹に力をいれないとおしっこが出ない)、残尿感(おしっこが残った感じがする)などです。蓄尿症状は、肥大した前立腺により膀胱が刺激を受け敏感になることが原因で起きる、頻尿(おしっこが近い)、尿意切迫感(尿意を感じたらすぐにトイレにいかなければならない)、下腹部不快感などです。症状の程度を調べる問診票(図3)で、中等度以上の症状(合計8点以上)があれば、泌尿器科への受診をおすすめします。


図3

(検査)
 まず、おしっこを顕微鏡でみる検査で、菌はついてないか、血は混じってないかを調べます。そして、症状をお聞きし、超音波検査(エコー)にて前立腺の大きさ、残尿(尿の残り)を測定します。いずれの検査も簡単で体に負担のかかるものはありません。

(治療)
 大きく以下の3つの治療法に分けられます。

  1. お薬による治療(薬物療法)
    • 前立腺内の尿の通り道を広げる薬:α1(アルファワン)ブロッカー
      排尿症状に効果があり、尿の出が良くなります。
      商品名:ユリーフ、フリバス、ハルナール
    • 膀胱の緊張をとる薬:抗コリン剤
      蓄尿症状に効果があり、頻尿や尿意切迫感が良くなります。
      商品名:ウリトス、ベシケア、デトルシトール、バップフォー、ポラキス
    • 前立腺を小さくする薬:抗男性ホルモン剤
      商品名:プロスタール、パーセリン、アボルブ
  2. 手術による治療(手術療法)
    • 内視鏡で行う手術(経尿道的前立腺切除術)(図4)
      最も標準的な手術法です。前立腺の内側から肥大した内腺を削り取り、尿の通り道を広くする手術です。すぐに効果を実感できます。
    • お腹を切ってする手術(開腹手術)
      内視鏡手術のない時代、標準的手術法でした。今でも、大きな前立腺肥大症に対して行うことがあります。
  3. 体に負担のかからない治療(低侵襲性治療)
    • レーザー手術 
      前立腺を内側からレーザーで焼く手術です。将来、広まる可能性があります。
    • 尿道ステント法
      狭くなった前立腺の尿の通り道にストロー状のトンネルをおき、尿の通り道を確保する治療法です。

図4

【前立腺がん】

 アメリカやヨーロッパでは、前立腺がんはすでに男性のがんの中で最も多いがんとなっています。日本でも急激に増えており、2020年には肺癌に次いで2番目のがんになると予想されています。増加の要因として、食生活の欧米化(脂肪の過剰摂取、緑黄色野菜の不足)、社会の高齢化(前立腺がんが高齢者のがんであるため)、診断技術の進歩(早期のがんがたくさん見つかるようになったため)などが考えられています。

(症状)
 前立腺がんの多くは外腺から発生し、早期のうちはがん特有の症状はありません。がんが進行して尿の通り道を圧迫するようになると、前立腺肥大症と同じような症状がでてきます。さらに進行すると、がんが骨に転移して、腰や手足の痛みが現れるようになります。

(検査)
 初期には症状がないため、早期のがんを発見するのはとても困難でした。しかし、腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査の登場により早期のがんの発見率は飛躍的に向上しました。前立腺がん検診はこのPSA検査で行われていますが、検診実施率の高いアメリカでは転移のある患者さんが激減しました。残念ながら、日本での検診実施率は低いのが現状です。発見率が他のがんの約10倍(100人の検診で1人以上みつかる)と高率であることも合わせて考えますと早期の普及が望まれます(図6)。PSAは4以下が正常であり、10で3分の1の方、20で半分の方、50以上ではほとんどの方に前立腺がんが発見されます(図7)。
 PSAの値で前立腺がんを疑った場合、前立腺生検(麻酔をして前立腺から組織を細い針で採取し、がんがないか顕微鏡で調べる検査)を行います。
 前立腺がんが確定した場合、画像検査で、前立腺の外に広がっていないか、転移(主に骨、リンパ節)はないかを調べます。


図6

図7

(治療)
 全身への治療であるホルモン療法と前立腺そのものへの治療である手術療法、放射線療法に分けられます。

  1. ホルモン療法
     男性ホルモンは前立腺がんの成長を助けています。これを逆に利用したのがホルモン療法です。男性ホルモンが前立腺がんへ移行するのを阻止することでがん細胞の成長を抑制する治療法です。具体的には、男性ホルモンの働きを抑える抗男性ホルモン剤(毎日の飲み薬)、男性ホルモンの分泌を抑える注射剤や精巣の摘出があり、この中から患者さんにあったものを選択して治療します。
  2. 放射線療法
     放射線を前立腺に照射して、がん細胞を殺す治療法です。手術に比べ体への負担が少ないため、75歳以上の高齢者や重い持病がある方に対しても治療が可能です。体外から照射する方法と体内から照射する方法があります。体外からの照射法は1日1回、週5回の照射を7週間続けます。体内からの照射法は放射線の源を前立腺に埋め込むもので、非常に早期のがんであれば手術療法と同等の治療効果が期待できます。
  3. 手術療法
     前立腺を丸ごと全部摘出して、膀胱と尿道をつなぎ直す治療法です。限局がん(前立腺内にがんがとどまっている)であれば、完治が期待できます。手術時間は約2時間で2週間の入院が必要です。術後に問題となる尿失禁は手術方法を工夫することで、10%以下となっています。

 前立腺がんは早期に発見されれば、生命に関わらない病気です。そのために是非ともPSA検査をお受けください。熊本市民病院泌尿器科外来でも行っております(外来日:平日火曜日以外)。