血液の「三大がん」について

2014.06.14

血液・腫瘍内科 津田弘之

三大血液がん

近年、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、肝がんは五大がんと呼ばれて、病気の概要について広く知られるようになりました。一方で、血液がんについては、映画やドラマのテーマにはしばしばなるものの、まだ意外によく理解されていないようです。血液がんのほとんどを占め、三大がんと呼ばれるのが「白血病」「悪性リンパ腫」「多発性骨髄腫」です。なかでも、悪性リンパ腫は、先の五大がんに次ぐ頻度でおこり、決して稀な病気ではありません。以下、血液の三大がんについて概説します。

白血病

急性白血病

急性白血病は、骨髄中の未熟な造血細胞ががん化して、正常の分化・成熟が止まり、急速に増殖する病気です。がん細胞の起源によって、「骨髄性」と「リンパ性」に分けられます。両者で程度の差はありますが、主な症状はいずれも、発熱、出血、貧血で、どれも正常の造血が傷害されることによって起こります。発熱は白血球(好中球)減少による感染症、出血は血小板減少(時には加えて血液凝固異常も)、貧血は赤血球減少が原因です。リンパ性白血病の場合、リンパ節が腫れることもあります。
小児から高齢者までみられる病気ですが、小児と成人では白血病細胞の性質も予後(病気の経過)も大きく異なっているので、同時には論じられません。同じ成人でも高齢者の場合、突然起こるのではなく、約7割は前白血病状態の「骨髄異形成症候群」という時期を経て発症するのが特徴です。白血病と言うと、がん細胞が血液中にいっぱい増えているというイメージを持たれがちです。もちろんそういうケースもありますが、血液の中のがん細胞はわずかで(骨髄では増えている)、正常細胞の減少だけが目立つ場合も少なくありません。特に、骨髄異形成症候群に由来する白血病ではそうです。
本施設では、1987年に設立された「日本成人白血病治療グループJALSG」に参加し、標準的および治療研究を行っています。急性白血病の治療は、抗がん剤による強力な化学療法が主流です。骨髄性とリンパ性では治療法が全く異なります。どちらにも、染色体や遺伝子変化の種類によって、治りやすいタイプと、治りにくいタイプがあります。例えば、急性前骨髄性白血病というタイプには、レチノイン酸(ビタミンA誘導体)や亜ヒ酸という特効薬があり、他の毒性の強い薬剤をあまり投与しなくても、高率によくなります。反対に、現存の治療法では治癒に導くのがとても困難なタイプもあります。見かけ上治癒(寛解と呼びます)しても、いずれ再発することが予測される場合は、通常の化学療法の後に、造血幹細胞移植を加えることもあります(ただし、比較的若い人で、しかもドナーが見つかる場合に限られます)。最近では、急性骨髄性白血病の一部に対して、抗がん剤を標識した抗体(ゲムツズマブオゾガマイシン)、急性リンパ性白血病の一部に対して、分子標的薬剤であるチロシンキナーゼ抑制剤が使われるようになり、本施設でも効果を上げています。
しかし、急性白血病では、白血病細胞をすべて力ずくでやっつけてしまう目的で、抗がん剤による強力な化学療法が行われるのが今でも一般的で、治療自体に高いリスクを伴います。分子病態が明らかになるにつれ、各タイプを層別化・個別化し、分子標的療法を取り入れたより効果的で安全な治療法が模索されています。

慢性白血病

慢性白血病にも、由来する細胞によって、「骨髄性」と「リンパ性」があります。「慢性リンパ性白血病」は欧米ではとてもポピュラーな病気で、分子レベルの病態解析も治療も長足の進歩を遂げつつあります。しかし、日本ではかなり稀な疾患の一つですので、以下「慢性骨髄性白血病」についてのみお話しすることにします。
慢性骨髄性白血病でも急性骨髄性白血病と同様に、骨髄中の未熟な造血細胞(造血幹細胞)ががん化します。異なるのは、がん細胞が、分化・成熟する能力を保っていることです。しかし、本来寿命がきたら死ぬはずの細胞が、がん化により生き残って、結果的にからだの中でゆっくりと増えていくのです。従って、病気の進行は遅く、症状も病初期にはほとんどありません。そのため、健康診断の血液検査で、偶然、白血球や血小板の増加を指摘されて発見される場合がほとんどです。ただ、進行すると脾臓や肝臓が腫れてきます。また、慢性とは言っても、急激にがん細胞が増殖を始める時期があります(急性転化)。
原因遺伝子、分子異常がよく解明されており、分子標的薬剤の代表格であるチロシンキナーゼ抑制剤TKIがいわゆる特効薬です。現在、このお薬が使われ初めて10年を超えたところですが、長期にわたり非常によい治療効果が得られます。本施設でも、発売当時から使用していますが、患者さん全員が今もお元気です。その後も、効果の高いTKIが続々と開発されており、患者さんの諸条件を考慮して使い分けています。しかし、多くの患者さんの中には、さらなる遺伝子の変異でTKI抵抗性となったり、副作用のためにTKI治療が十分できなかったりして、治療のとても困難な急性転化というステージに移行する例があります。そのときは、他家造血幹細胞移植が適応となります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球ががん化して増える病気で、白血病と違って塊を作る性質があります。自覚的には、首、脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れて気付くことが多いのですが、リンパ組織は全身に分布しているので、からだのどこから出てきてもおかしくありません。時には、発熱、体重減少、寝汗などの全身症状を伴います。 ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別されますが、日本ではホジキンリンパ腫は10%弱で、非ホジキンリンパ腫が大多数を占めます。
非ホジキンリンパ腫は、由来するリンパ球の種類によって、B細胞性、T細胞性、NK細胞性などと呼ばれて区別されます。さらに、病理組織像、染色体、遺伝子、細胞表面形質などの違いから、多くの種類に分類されます。この面倒で難解な分類がなぜ必要かというと、一口に悪性リンパ腫といっても、急速に進行するタイプから、年単位でゆっくり進むタイプなど千差万別で、即入院して治療が必要な場合がある一方で、何年も治療無しで経過観察した方がよい場合もあるからです。もちろん治療薬も異なってきます。
診断には、病変部位を試験的に切除「生検」して調べる「病理診断」と、PET/CTなどによる「病期診断」があります。どちらも、確定診断、治療方針の決定、予後の予測などに必須です。なにより最初の診断がとても大切です。
治療は、複数の抗がん剤を組み合わせて行う化学療法が一般的です。B細胞性の場合は、それに、リツキシマブという細胞表面抗原に対する抗体を併用するようになって、治療成績がぐんと向上しました。T細胞性、特に悪性度の高い成人T細胞性白血病・リンパ腫では、モガムリズマブという抗体療法が用いられることがあります。悪性リンパ腫では一般に放射線療法も有効ですが、主に補助的治療として行われます。ケースによっては、放射性アイソトープを標識した抗体で治療する方法もあります。再発した場合や再発する可能性が高い場合は、自家造血幹細胞移植の選択も考慮することもあります。悪性リンパ腫においても、分子病態の解明が進み、細胞内シグナルを制御する治療薬をはじめ、様々な分子標的薬が開発されていて、日本で実用化されるのも間近です。

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は「形質細胞」ががん化して、おもに全身の骨髄で増える病気です。形質細胞は、白血球の一種であるリンパ球(B細胞)から分化・成熟した細胞で、元来は病原体からからだを守る「抗体」(免疫グロブリンというタンパク質)を作る細胞です。通常、がん化した細胞もこの特性を保っているため、血液や尿中にM蛋白と呼ばれる抗体が検出されます(ただし、この抗体は抵抗力にはなりません)
高齢者、特に男性に多い病気で、年々増加傾向にあります。症状で最も多いのが、骨の痛みです。がん細胞が骨を破壊しながら増えていくのが主な原因で、実際、全身の骨が弱く、折れやすくなります。次第に、正常の造血が傷害されて、貧血、白血球減少、血小板減少なども生じます。腎障害、免疫不全(抵抗力の低下)、高カルシウム血症による諸症状もこの病気に特徴的です。ただ、近頃は、無症状で偶然前述のM蛋白が見つかることも少なくありません。
治療法は、病気の時期(進行度)、年齢、全身状態などを勘案して決めます。病気の初期で臓器障害のない場合は、治療なしで経過観察するのが標準的です。「早期発見・早期治療」という一般的ながんの概念からは、奇異に感じる方も多いかもしれませんが、この病気の性格を考えるとその方がいいのです(もっとも、数年先には考え方が変わる可能性はありますが)。現在、治療対象は「症候性骨髄腫」と呼ばれる臓器障害を持った患者さんのみです。そして、比較的若く(65歳以下)、重篤な合併症がなく、しかも心肺機能が正常の患者さんでは、①大量化学療法+自家造血幹細胞移植を考慮します。それ以外の患者さんには②標準量化学療法を行います。
最近、①移植の場合の導入療法や②標準量化学療法で使用される有力な薬剤が登場しました。サリドマイド、ボルテゾミブ、レナリドマイドの3薬剤です。それぞれ単独、あるいは既存・新規の薬剤との併用で、非常によい治療効果を示し、明らかな生存期間の延長が見られます。本施設でも、これらの薬剤を駆使して積極的に治療を行っています。さらに効果的な投与法や、より有効な薬剤の開発も進められており、治療法は年々変化している現状です。

終わりに

以上、三大血液がんについて概観してきました。どの病気も、生命を脅かす怖い存在であることは今もかわりがありませんが、治療法は着実に進歩しています。特に最近は、「分子標的薬剤」と呼ばれ、がん細胞やその環境に特有の遺伝子・分子異常に標的を定めて創薬される一連のお薬が注目を浴びています。これらの薬剤の中には、従来の治療成績を一気に押し上げ、標準治療を変えてしまったものもあります。一方で、新しい副作用や高額な薬剤費などの問題が生じてきています。これらの問題点も含めて、新しい治療法開発の動向には目が離せません。
熊本市民病院血液・腫瘍内科では、創設以来、これら三大血液がんの診療に真剣に取り組んできました。本科設立当初より、細胞・病理診断に加え、フローサイトメトリー、染色体・遺伝子診断などを組み合わせた、より正確な診断を目指しています。治療では、1992年熊本県で初めて末梢血幹細胞移植法を導入・成功させたのをはじめとして、分子標的療法のいち早い導入を行ってきました。引き続き、それぞれの患者さんに合った最新・最良の治療を提供できるように努めていきます。