肺がん

2015.03.14

呼吸器内科 岸 裕人

肺がんについて

日本において死亡原因の1位はがんであるが、そのなかで肺がんは最も多く2012年には約7万人の方が亡くなられており、肺がんの死亡数は年々増加しています。肺がんの危険因子として喫煙があり、肺がんを予防するには禁煙が最も重要です。肺がん検診としては40歳以上を対象とした胸部X線検査と重喫煙者では喀痰細胞診を1年に1回実施することで死亡率減少効果を認めています。米国では55-74歳の重度の喫煙経験者を対象とした大規模な研究 (NLST: National Lung Screening Trial)が行われ、低線量CT検診群の肺がんの死亡率が胸部X線による検診群に比較して20%低下したことが報告されました。
咳、痰、血痰、呼吸困難、胸痛などのもともとの肺がんの症状、あるいは頭痛や骨の痛みなど肺がんの転移による症状、あるいは胸部X線などの検診にて肺がんが見つかります。肺がんの診断確定には胸部CTを行った上で、気管支鏡検査、CT下肺生検、胸腔鏡検査などによって組織あるいは細胞をとってくる必要があります。病期診断には胸腹部CT、PET (あるいは骨シンチ)、頭部MRIなどの検査を行い、T (Tumor, 腫瘍)、N(Lymph Node, リンパ節)、M(Metastasis, 転移)からなるTNM分類によって臨床病期が決定します。肺がんは病理組織によって小細胞がん(約15%)、腺がん(約50%)、扁平上皮がん(約30%)、大細胞がん(数%)にわかれ、治療法が違うことから小細胞肺がんと非小細胞肺がん (腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)に大別します。小細胞肺がんは原発病巣側の胸郭にのみ病巣が限られる限局型 (LD: limited disease)と、LDの範囲を越えて腫瘍が進展している進展型 (ED: extensive disease)の分類を使用することが多いです。
肺がんの治療は以前と比べて進歩してきています。日本肺癌学会から肺癌診療ガイドラインがでており、毎年アップデートされ昨年は2014年版がでて、日本肺癌学会ホームページでどなたでも見ることができます。また2014年版は本として出版されています。患者さんと御家族のためには、日本肺癌学会が公認で西日本がん研究機構 (WJOG)から「よくわかる肺がんQ&A」が2014年に本として出版されています。
まず小細胞肺がんの治療ですが、I期では手術 + 術後に補助化学療法を行います。限局型小細胞肺がんでは化学療法と同時に放射線療法を行う化学放射線療法を行い、がんがほぼ消失した(完全寛解、CR: complete response)と判断された患者さんに対しては脳への再発を予防するために脳全体に放射線療法(予防的全脳照射)を行います。進展型小細胞肺がんでは
化学療法を行いますが、根治は困難で、化学療法の目的としては症状の緩和と生存期間の延長となります。
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PS4 (図1参照)のように全身状態が悪い場合は化学療法の適応はなく、緩和ケア主体の治療となります。
次に非小細胞肺がんの治療ですが、stage I, II, 切除可能なstage IIIAでは手術を行います。日本において、腫瘍径が2cmをこえる術後病理病期IA期、IB期の完全切除例に対してはテガフール・ウラシル配合剤 (UFT)内服によって手術単独と比較して生存期間の延長が報告されています。また術後病理病期II期、IIIA期の完全切除例に対しては国外の報告ですが、術後にシスプラチン+ビノレルビンによる補助化学療法を行った方が手術単独より生存期間が延長します。切除不能、放射線照射可能なIII期では化学療法と同時に放射線療法を行う化学放射線療法を行います。
根治照射不能III期、IV期では化学療法を行います。根治は困難で、化学療法の目的としては症状の緩和と生存期間の延長となります。現在非扁平上皮がんではEGFR (Epidermal growth factor receptor)遺伝子変異、ALK(Anaplastic lymphoma kinase)遺伝子転座の有無を調べ、陽性であれば分子標的薬の投与を行います。EGFR遺伝子変異陽性ではゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの3種類の分子標的薬があり、1次治療において細胞障害性抗がん剤と比較して無増悪生存期間の有意な延長を認めています。ALK遺伝子転座陽性ではクリゾチニブ、アレクチニブの2種類の分子標的薬があり、現在のところ、クリゾチニブは1次治療において細胞障害性抗がん剤と比較して無増悪生存期間の有意な延長を認めています。非扁平上皮がんでEGFR遺伝子変異陰性、ALK遺伝子転座陰性ではプラチナ製剤と1990年代以降に開発された第3世代以降の抗がん剤の併用を行います。また血管新生阻害剤であるベバシズマブを用いて3剤併用を行うことがあります。最近、初回の化学療法に継続して化学療法を行う「維持療法」という方法があり、シスプラチン+ペメトレキセド併用療法4コース後にがんの悪化を認めず副作用に問題なければペメトレキセドによる化学療法を継続します。扁平上皮がんではプラチナ製剤と第3世代以降の抗がん剤の併用を行います。
現在のところ、非小細胞がんでEGFR遺伝子変異陰性、ALK遺伝子転座陰性ではPS3-4(図1参照)の患者さんは化学療法の適応はなく、緩和ケア主体の治療となります。しかし今後はEGFR遺伝子変異陽性、ALK遺伝子転座陽性以外を標的にする分子標的薬がでてきて治療できるようになる可能性があります。
プラチナ製剤であるシスプラチンは嘔吐、吐き気、腎臓の障害などの副作用がありますが、肺がんの化学療法のキードラッグです。マグネシウムを追加することで腎障害の程度が軽くなるという報告や短時間で少量輸液を行うシスプラチンショートハイドレーションが報告されています。日本において高度催吐性化学療法に対する制吐療法3剤併用の有効性を示したTRIPLE試験 、ショートハイドレーションの安全性を前向きに評価した2つの臨床試験の報告があり、制吐剤の進歩、ショートハイドレーションにより、肺がん患者さんに対するシスプラチン併用化学療法は外来治療が可能となってきています。当院では入院加療ですが2014年2月からマグネシウムを追加したショートハイドレーションを導入し、2011年1月からシスプラチン (≧60mg/m2)の併用化学療法における毒性の比較検討を行いました。シスプラチン(CDDP)+ペメトレキセド(PEM) ショートハイドレーションの投与方法を示します(図2参照)。
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従来のレジメン、ショートハイドレーションの症例数はそれぞれ23人、5人で、平均年齢はそれぞれ64歳 (41-74歳)、57歳 (34-73歳)でした。(患者背景 図3, 4、化学療法レジメン 図5 参照)。
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主な毒性は従来のレジメンでクレアチニンの増加がGrade 2が1例、Grade 1が2例、心房細動がGrade 2が3例、発熱性好中球減少がGrade 3が5例でした(図6 参照)。
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一方、ショートハイドレーションでは発熱性好中球減少がGrade 3が1例でクレアチニンの増加は認めませんでした。ショートハイドレーションではクレアチニンの増加なく安全に施行できました。シスプラチン投与前は全身状態、腎機能、心機能 (心電図、心エコー、BNP)をみて化学療法を行っていますが、従来のレジメンで3例心房細動を認めました。シスプラチン投与により心房細動を発症した報告があり、ショートハイドレーションにおいても出現する可能性があり、動悸などの症状、心電図のチェックが必要であると考えました。今後シスプラチンショートハイドレーションを行い、腎機能、心機能などを検証していく予定です。現在、胃がんにおいてもシスプラチン + S1は外来での治療が普及しつつあります。最近は、外来化学療法センターにおいてもシスプラチンショートハイドレーションを行っており、導入件数が増え、がん患者さんのQOLの向上に寄与できればと考えています。