心筋梗塞と高コレステロール血症の関係

2015.03.16

循環器内科 森上靖洋

心筋梗塞とは?

厚生労働省の人口動態統計によると、日本では戦後長らく脳血管疾患が死亡原因のトップでしたが、1980年代になり悪性新生物がトップとなり更に心疾患が2位となり、脳血管疾患は第3位に低下しました。(そして2011年には死因別の死亡数は、悪性新生物がトップ。次いで心疾患、肺炎、脳血管疾患の順になりました。)しかし、よく考えてみますと心疾患と脳血管疾患はいずれも血管系の病気です。従いまして、それらを合算すると日本人はかなりの高率で血管系の病気で死亡することになります。(図1)

今回は心疾患の中でも死因として大きな比重を占める心筋梗塞、およびその危険因子としての高コレステロール血症についてご説明します。
心筋梗塞は心筋に酸素や栄養を供給している冠(状)動脈の動脈硬化が進展して発症します。すなわち血管の内側にある内膜が損傷し、そこから脂肪やその変性物質が血管壁の中に沈着し、白血球がそれを貪食したりして次第にアテローム(粥状硬化)という血管壁の肥厚や硬化、脆弱化を来してきます。(図2)

そしてアテロームや血栓(血液の固まり)により血液が途絶してそれより先の心筋が死んでしまう状態が心筋梗塞であり、一方、心筋が死なずに一時の酸素不足から回復するのが狭心症です。従って心筋梗塞の方がより重症であり、狭心症は心筋梗塞の前段階と考えることもできます。(図3)

具体的な自覚症状としては図4、5、6のようなものがありますが、それを感じる場所も含めて個人差がありますので素人判断は禁物です。そのような症状を自覚したときには、放置せずにこれらの病気を疑って専門医に一度診察してもらうことは非常に重要なことです。



心筋梗塞や狭心症を“虚血性心疾患“と総称しますが専門医は図7のような診察や検査を行い、診断をつけていきます。

最近では冠動脈CTも広まってきました。図8、9、10は熊本市民病院での例ですが、冠動脈CTは基本的には外来で実施可能で、苦痛もなく受けられ患者さんもご自分の血管の状態がよくわかりますので理解が進みます。その他、頸動脈、大動脈、足の動脈なども周囲の組織を取り除いた状態で立体的に表示でき有用な情報が得られます。


これらの検査で必要性が確認されれば、最終的には冠動脈造影検査が必要になってきます。これは腕や足の動脈から細い管(カテーテル)を挿入し、冠動脈を選択的に造影するという検査です。それを動画に撮り細かい分析をした上で治療方針を決定していきます。また冠動脈造影検査の特徴は単に検査にとどまらず治療(冠動脈ステント留置術など)が行えるという点です。急性心筋梗塞では冠動脈造影検査は緊急で行われることが通常です。図11は熊本市民病院での冠動脈造影検査の様子です。

これらの診察や検査結果を基に、その患者さん自身に最も適した治療(図12)を選択し、実施していきます。

すなわち、心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患の治療はだれでも同じというわけではなく、その患者さん個人個人に最も適した治療をする必要があり、それが患者さんの今後の寿命や生活の質を上げる要因となります。(そのために私たち循環器専門医は専門的な知識と技術、検査を駆使して日々診察を行っています。)

高コレステロール血症とは?

前述しましたように心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化が進んで発症しますが、では動脈硬化を促進する因子としてはどのようなものがあるのでしょうか。図13はそれを示したものです。
動脈硬化を進行させるのは様々な因子があることがわかっています。このうち不変因子とは自分の力では変えられないもの(すなわちどうしようもないもの)です。年をとること、男性に生まれてきたこと、親からの遺伝は自分で変えることは不可能です。一方、可変因子とは自分の力である程度変えられるものを指します。変えるというのは日常生活での自主的な自己管理(禁煙する、適度な体重を保つ、運動をするなど)の他、薬品の力を借りる(高血圧や糖尿病、脂質異常症の治療など)こともあります。今回はこの中で脂質異常症(高脂血症)の中でも特に高コレステロール血症について心筋梗塞との関係を見てみたいと思います。
血液中の脂質が増加した状態を高脂血症と呼びますが脂質は更に細かく分類されます。その代表格がコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)です。コレステロールは細胞を構成する重要な成分、ホルモンや胆汁酸の材料となりますし、トリグリセライドはエネルギー源となります。コレステロールは更に細かく分類されますが、詳細は割愛させていただきます。
図14は少し古いデータになりますが、厚生省原発性高脂血症調査の日本の高脂血症と虚血性心疾患合併率という調査結果です。

総コレステロール、LDL-コレステロール(コレステロールの一成分で、一般社会で“悪玉コレステロール”と呼ばれているものです)ともその値が増加するに従い虚血性心疾患を合併する割合が右肩上がりに上昇していきます。すなわち、血中のコレステロール値が高いと虚血性心疾患を発症しやすいことはかなり昔からわかっていたことなのです。総コレステロール値が200㎎/dl未満に比べ200㎎/dl以上では虚血性心疾患の合併率は3~5倍に上昇しています。
体内のコレステロール値は食物から吸収と体内での合成で主に決定されます。高コレステロール血症に関係している生活習慣は、食べ過ぎ、特に脂質のとり過ぎです。図15は日本におけるエネルギー摂取の変化を厚生労働省の平成22年(2010年) 国民健康・栄養調査より示したものです。

成人男性の20%、女性の28%で、脂質からのエネルギー摂取が30%以上でした。特に若年者で脂質過多の傾向が強くみられます。日本人の総エネルギー摂取量はこの50年であまり変わりませんが、栄養素の割合は大きく変化してきました。摂取エネルギーに占める糖質の割合は80%から60%弱に減少し、代わりに脂質の割合が9%から26%に約3倍に増加しました。脂質の割合が20%を超えたのは、米国からファーストフードのチェーン店が進出した時期と重なります。アメリカと日本の調査 (1980年/1990年/2000年)、 2010年国民健康・栄養調査 では日本人の総コレステロール値は食生活の変化により1980~90年にかけて急激に上昇し、2000年には平均200mg/dlを超えています。それに対して米国では徐々に低下し、現在は日本人が米国人の総コレステロール値を超えています。
その結果どうなったかを見てみますと、図16のようになります。

そしてこれらが、冠動脈疾患の予防と治療の立場からみた日本人のスクリーニング基準値を決める根拠となったデータです。改訂された最新の動脈硬化性疾患予防ガイドライン〈2012年版〉ではスクリーニングをするための高LDLコレステロール血症の基準を140mg/dL以上としています。HDL-コレステロール(善玉コレステロール)値と冠動脈疾患のリスクが有意に逆相関することは欧米のみならず、日本の成績でも確立されています。現在のガイドラインではHDL-コレステロール40mg/dL未満を低HDL-コレステロール血症としています。また日本の前向き調査で、冠動脈疾患の発症がトリグリセライド値150mg/dL以上で増加するとの報告があることから、トリグリセライド150mg/dL以上を高トリグリセライド血症としています。
これで高コレステロール血症(特に総コレステロールやLDLコレステロール)が心筋梗塞発症を促進していることがおわかりですね。
ではどのように高コレステロール血症に向き合えばよいのでしょう。高コレステロール血症治療の目的は動脈硬化性病変の発症予防にあります。その方法として
①一般療法(生活習慣を見直し、是正する)
  食事療法(総カロリー、栄養面の見直し)
  運動療法(運動不足を解消しカロリーを消費する)
②薬物療法(薬物により血清脂質のバランスをとる)
③特殊療法
  外科手術、LDLアフェレーシス、遺伝子治療など
等がありますが、ほとんどのケースが①②となります。
医療関係者用の図であり一般の方には難しくて恐縮ですが、図17に示すように日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012ではLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)の管理目標値が示されています。

なんと言ってもまずは一般療法(生活習慣を見直し、是正する)が重要で、それを努力しても目標達成困難な場合には薬物療法も併用します。危険因子が多いほど、目標値は低くなっています。目標値を目指して、悪玉コレステロールをしっかり下げましょう。
今回は高コレステロール血症についてのみ述べましたが、前述したように動脈硬化を促進する因子は多数あります。これらを総合的に改善して少しでも動脈硬化の進展を抑制し、心筋梗塞などの虚血性心疾患になる危険性を減らしましょう。
万一、心筋梗塞や狭心症を疑わせる自覚症状があった場合は、放置せずに循環器専門医を受診しましょう。(結果的にその症状が心筋梗塞や狭心症ではなかったにしても、本物の病気を見逃すよりもずっと後々の人生にいいからです。)
最後まで読んでいただきありがとうございました。