喉頭がん

2014.03.14

耳鼻科が中心となって診療を行う頭頸部がんは、全がんの5%ほどと考えられていますが、口唇および口腔がん、鼻腔および副鼻腔がん、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、唾液腺がん、甲状腺がん・・・、と細分類されます。このうち3割ほどを占める、最も発生頻度の高いのが喉頭がんです。最近の統計では人口10万人あたり3-4人程度の発生で、男性が女性の10倍以上、90%以上に喫煙歴があり、たばこ関連がんの代表です。逆に言えば、喫煙をしなければほぼ罹ることのないがんということになりますが、受動喫煙の機会が多い人も注意が必要と思われます。また、その他の頭頸部がんと同様に、上部消化管のがんが重複して発生し易いことが知られています。
喉頭がんは、声帯にできる声門がん、それより口側にできる声門上がん、気管側にできる声門下がんに分けられ、割合は声門がんが6割程度、声門上がんが3割程度、声門下がんの発生はわずかです。がそれぞれの経鼻内視鏡写真です。左右の声帯の振動によって音声が作られることから、声門がんは早期の段階で嗄声を生じ診断されることが多いですが、声門上がんでは比較的進行し、嚥下時痛やのどの違和感といった症状を生じてから発見されることが多く、首に転移したリンパ節の腫脹が初発症状となるような方もいます。声門下がんではさらに進行するまで症状を来さないため、受診時にはすでに呼吸困難を来しているようなことが多い印象です。(声帯の裏面に進展しているため写真では分かりにくいですが、実際にはかなりの拡がりがあります。)呼吸困難に対しては気管切開が必要となります。外来受診時に写真のような異常があれば、その場で組織を採取し診断を確定させます(1週間ほどかかります。)。進行度の診断のためにはMRIやCTなどの画像検査を行います。
喉頭がんの治療は進行具合に応じて、手術または放射線治療を主体にして、これらを単独またはこれらに抗がん剤治療を組み合わせるような形で行います。図のように喉頭はのど仏として触知される甲状軟骨や輪状軟骨を中心とするいくつかの軟骨によりその枠組みが形成されています。

他領域のがんと同様、進行度については取扱い規約に細かなTNM分類が定められていますが、大まかにはこの枠組みに浸潤したり、声帯の運動障害を来したりしてくるものが進行がん、そこまで行かないものが早期がんと考えてもらって良いでしょう。なお、頸部のリンパ節転移や遠隔転移を来した場合はそれのみで進行がんとなります。喉頭がん全体の治癒率は7-8割と頭頸部がんの中で高い方ですが、これは早期で発見されることが多く、また局所進行がんでも比較的転移を来すことが少ないからです。遠隔転移を来した場合には根治的治療はなく、状況に応じて抗がん剤治療などを行います。頸部のリンパ節転移に止まっている場合には、原発巣に対しての治療に頸部リンパ節郭清術といった手術を中心とした治療を加えることで根治が期待できる場合も多いです。ここでは原発巣の治療について述べます。
がんの手術ではがん周囲の組織を大きく切除するほど根治性は高いと言えます。ただ、喉頭がんに対してその様な手術を行うと、音声に支障を来すばかりか、誤嚥を来し易くなるという問題があり、これらをなるべく起こさないようにすることが治療には重要です。喉頭がんに対する最も侵襲の大きな手術は、喉頭を軟骨の枠組み全体ごと切除する喉頭全摘出術であり、多くのがんを根治的に切除できますが、この場合、音声源を失うばかりでなく、永久気管孔と呼ばれる呼吸をするための孔が前頸部に造設されます。
気道と食道が分離されるため誤嚥の危険性はなくなりますが、入浴などの永久気管孔に水が入り得る行為により溺れる危険性が生じるなど、生活に不便を来します。なお身体障害者に該当します。なるべく喉頭全摘出とはならないように、かつがんは根治できるよう治療を選択する必要があります。
早期がんでも進行の浅い方からT1,T2としますが、これらに対しては放射線単独でもそれぞれ8-9割、5-7割の治癒が得られます。放射線治療は通常通院で行いますが、最大の長所は音声の増悪がないことです。短所として、放射線による合併症を来す危険性があるということもありますが、2か月近い治療期間を要することも挙げられます。治り切らない場合は手術が必要となります。早期がんに対する手術には喉頭の枠組みを一部切除する喉頭部分切除という術式もありますが、枠組みを損なわずに経口操作で行う直達鏡下のレーザー手術を選択することが多くなっています。病変の進展範囲によっては行いにくいのですが、治療効果は放射線治療と同等、声帯ポリープなどの良性病変の手術に近く、当科では通常2泊3日の入院としています。声帯を切除することが多いため、声が増悪する可能性があるというのが欠点です。
進行がんでは放射線単独での根治は難しいため、通常抗がん剤を複数併用しての治療を行います。抗がん剤の副作用が強く出ることも多く、さらに制御率が悪くなるため手術を中心とすることがより多くなります。中でも喉頭全摘出術が選択されることが多く、さらに拡大切除が必要となることもありますが、これに対して、比較的最近国内でも普及し出している術式として喉頭亜全摘出術があります。がんを喉頭枠組みの中心である甲状軟骨と一塊に切除する方法です。一側の披裂軟骨までの合併切除が可能とされ、病変切除後は、舌骨と輪状軟骨を強く縫合固定するのみのやや荒く思える術式ですが、最大の長所は永久気管孔を形成せずに済む点です。
この方法は1950年代にフランスで考案され改良が加えられていますが、従来喉頭全摘出術を行っていた症例の3割程度がこの手術の対象となるのではないかとも言われています。問題点は、術後の局所浮腫が強くなり、一時的に置いた気管切開孔がなかなか閉じられず、うまく嚥下できるようになるまでも時間がかかるため、入院期間が2か月程度と長くなることです(喉頭全摘出術では当科の場合、最短で3週間以内です。)。また、がんが根治できてもその後加齢とともに誤嚥を来してくることも予想され、十分な経過観察が必要と思われます。このためあまり高齢の方には勧められません。
喉頭全摘出術後には声帯を失うことになりますが、人工喉頭使用や食道発声などいくつかの代用発声法があります。この中でも比較的声質の良い音声を簡単に獲得できる方法として、気管食道瘻を形成して留置した一方向弁付きのボイスボタンを利用するものがあります。気管孔を指で押さえて呼気を口腔方向に送り込みます。抑揚のない声となりますが、電話で話される方もいます。ボイスボタンには汚れがつくため、外来で年に1回程度は交換が必要です。
当科では治療法の長短所を患者さんに伝えた上で選択してもらっています。2011年度からの3年間で、当科で治療を行った方は47名、このうち初回抗がん治療を行った方は43名、原発巣への治療の内訳は放射線単独治療13名、放射線化学療法4名、レーザー手術16名、喉頭亜全摘出術1名、喉頭全摘出術9名でした。