前立腺がんについて

2014.09.14

泌尿器科部長 桑原朋広

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前立腺がんとは

まず、前立腺は、膀胱の下にあり、栗の実の尖った方を陰茎に向けた形をしており、内部には尿道がとおっており陰茎内の尿道につながっています。前立腺の働きは、精液の液体成分を分泌して、精子の運動を助けます。(図1)
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前立腺は男性だけにある臓器で、女性には存在しません。発生学的に女性の子宮に相当する臓器です。この前立腺に発生するがんを前立腺がんといいます。

疫学

日本における男性のがん罹患数と将来予測をお示しします。(図2A)
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前立腺がんが著明に増加しているのが分かります。2020年には、肺がんに次いで第2位の罹患数になると予測されています。増加の背景としては、社会の高齢化や食生活の欧米化、診断技術の進歩に伴い、たくさん発見されるようになってきたことなどが関係しています。
前立腺がんの発生率を年代別にみたものをお示しします。(図2B)
前立腺がんは年齢とともに増加する典型的な高齢者がんであることが分かります。

診断

前立腺がんの検査と診断の流れですが、がんの可能性のある人を見つける検査として、血液検査による腫瘍マーカー、PSAの検査、直腸診、超音波検査を行います。ここでがんを疑った場合は、がんを確定するための前立腺生検、組織検査を行いますが、前立腺のどこにがんがありそうかをみるために生検の前にMRIという断層写真をとります。がんが確定した場合、がんの広がりを調べるためCTという断層写真や骨シンチという骨転移の検査を行います。(図3)
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PSA検査は血液検査で前立腺がんを見つける簡便な検査法です。「前立腺」「特異」「抗原」の英語の頭文字をとってつけられました。PSAは、前立腺でつくられるタンパク質の一種で、健康なときも血液中に存在しますが、前立腺がんが発症すると大量のPSAが血液中に流れ出すことから、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられるようになりました。(図4)
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PSAの値と前立腺がんの発見率の関係ですが、PSA値が高いほど前立腺がんの可能性は高くなります。PSA値が4より高ければ、前立腺がんを疑い、10で3分の1、20で半分、50以上ではほとんどの方に前立腺がんが発見されます。また、50以上になりますと転移の可能性もでてきます。(図5)
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前立腺がんが疑われた場合は、前立腺生検という組織検査が行われますが、麻酔下に、肛門から超音波を挿入し、画像をみながら細い針を刺し、前立腺組織を10ヶ所ぐらい採取します。そして、がんがないか顕微鏡で調べます。麻酔をしますので痛みはほとんどありません。(図6)
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画像検査ですが、MRIではがんの場所や周りへの広がりはないかを、CTでは、リンパ節やその他の臓器に転移がないかを調べます。(図7)
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骨シンチは、骨転移の有無を調べます。転移がある場所が黒くうつります。X線では、転移がある場所が他の場所より白くうつります。(図8)
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治療

前立腺がんの治療は、大きく全身への治療と前立腺への治療に分けられます。全身への治療にはホルモン療法がありますが、お薬による治療と精巣の摘出の治療があります。前立腺への治療は、手術による治療では前立腺を全部摘出します。放射線による治療として、体外から照射する方法と体内から照射する方法があります。(図9)
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ホルモン療法

男性ホルモンは前立腺のがん細胞の増殖を促進します。これを逆に利用したのがホルモン療法です。精巣を摘出したり、お薬で、栄養源である男性ホルモンの前立腺がんへの移行を阻止することで、前立腺がんの成長は抑制されその結果がんは縮小します。お薬には男性ホルモンの働きを抑える飲み薬、男性ホルモンの分泌を抑える注射薬があります。ホルモン療法の効果がなくなった場合は抗がん剤の治療が必要になります。

手術による治療

手術は前立腺全摘術といいます。前立腺を付属する精嚢腺とともに摘出する手術で、従来は開腹手術が標準的な術式でしたが、徐々に腹腔鏡手術に移行しています(図10)。
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腹腔鏡手術とはこのようにお腹の中に炭酸ガス、二酸化炭素を入れてふくらました状態で、内視鏡の映像をモニタ-でみながら行う手術です。トロッカーという器具を通路にして鉗子や内視鏡を挿入します(図11)。
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腹腔鏡手術では、術者は患者さんの左側、助手、カメラマンは右側に立ちます。そして足側のモニターを見ながら手術をします(図12)。
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前立腺がんに対する腹腔鏡手術の1つ目の利点ですが、創が小さく目立たないだけでなく、術後の痛みが軽度であり、社会復帰が早くなります。手術創ですが、開腹手術は下腹部に約20cm切開創が入りますが、腹腔鏡では5~12㎜の5か所の小さな傷が入るのみです(図13)。
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2つ目の利点ですが、気腹による圧で出血量は開腹手術に比べ極めて少量であり、輸血を必要とすることは稀となります。3つ目の利点ですが、内視鏡を通して拡大視野が得られるため、繊細な手術ができることで、制癌性や術後のQOL(尿失禁、性機能低下)の改善が期待できます。切除断端陽性率とは切除した前立腺の端にがんがある確率ですが、当院におきましても開腹術よりも腹腔鏡手術で低い結果であり、再発の割合も少なく腹腔鏡手術が根治性(がんを治す力)において優れていることが分かります。手術時間に関しては開腹手術に比べ、技術的に難しいため手術が長いとされていますが、当院では2時間から2時間半(中央値2時間25分)と開腹術との差はなくなっています。

放射線による治療

放射線を照射して、がん細胞を殺す治療法です。手術に比べ身体への負担が少ないため、高齢者や重い持病がある方にたいしても治療が可能です。体の外からの照射と体の中からの照射の二つの方法があります。体の外から前立腺に放射線を照射する治療法は、皮膚に印をつけておき、そこに放射線を照射します。1回の照射時間は5分で、照射による痛みはありません。そのため、外来でも治療が可能です。通常、1日1回、週5日の照射を7週間続けます。治療中の合併症として、あたる場所への炎症がみられます。皮膚の炎症や膀胱に炎症がおこると排尿痛や頻尿がみられ、直腸が炎症を起こすと下痢や肛門痛がみられます。治療後しばらくたった晩期の合併症として出血があり、血尿や血便がみられることがあります。ただし、器械の進歩により合併症はかなり減ってきています。体内からの照射法は前立腺内に放射線の元を埋め込み、がん細胞を死滅させる新しい治療法です。超音波で見ながら放射線の元を挿入します。時間は2,3時間程度です。短期間ですが入院が必要です。非常に早期のがんであれば、手術と同等の治療効果が期待できます。